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東京家庭裁判所 昭和43年(家イ)5402号 審判 1969年6月13日

国籍並に住所 カナダ国オンタリオ州

申立人 マリー・エル・ミルン(仮名)

国籍 カナダ国オンタリオ州 住所 東京都世田谷区

相手方 エドワード・ケイ・ミルン(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

申立人と相手方間の子ルイス・ジョーレス・モッス(一九五二年二月一二日生)の監護者を相手方と定める。

理由

一、本件申立の実情

申立人と相手方とは一九四四年九月一三日カナダ国ヨーク郡トロント市において結婚し、一九四九年夫婦揃つて来日し以来日本に居住していた。夫婦の間には一九四六年四月二二日キヤミル・ジョセフ、一九四八年二月一四日ウイリアム・クラーク、一九五〇年六月一九日パルド・アイ・ベーカー、一九五二年二月一二日ルイス・ジョーレス・モツス、一九五五年三月三日イリオット・カースレイがそれぞれ生まれた。ところが、この間夫婦の性格の不一致から争いが絶えず、申立人としては不和が深刻になるにしたがつて、婚姻生活に何らの希望を懐くことができなくなつたが、夫婦の間には、上記五人の子供がいるため、子供のために我慢を続けてきた。ところが一九六六年八月、申立人は遂に精神的苦痛に耐えられなくなり、単身カナダに帰国した。以来申立人と相手方とは別居生活を続け現在に至つているものである。申立人と相手方との結婚生活は、お互いに愛情を失つて破綻に瀕しており、二度と円満な共同生活を回復することは全く期待し得ない状態に立ち至つている。したがつて、申立人は相手方との結婚の解消を求めるため本件申立に及ぶ。

二、本件事件の経緯

本件申立に基づき当裁判所は調停委員会による調停を四回試みたところ、調停期日に申立人代理人弁護士大島重夫および相手方本人ならびに相手方代理人弁護士鎌田隆が出頭したが、申立人本人は出頭せず、申立人本人の出頭が期待できないため、当事者間に合意の成立する見込のないものとして調停委員会は調停を終了した。

三、当裁判所の判断

(一)  本件記録中の外国人登録済証明書、結婚証明書、および相手方本人審問の結果、その他一切の資料によると、妻である申立人はカナダ国籍を有し、夫である相手方も同様にカナダ国籍を有すること、相手方はカナダ国オンタリオ州に居住し牧師をしていたものであるが、同じくオンタリオ州に居住していた相手方と一九四四年九月一三日オンタリオ州トロント市において結婚をしたこと、相手方は一九四九年七月申立人を伴い宣教師として来日し、以来相手方は日本に居住し、宣教師ならびに大学教授として神戸、札幌などに移り住み、一九六六年八月まで申立人と相手方はわが国において夫婦生活を営んでいたが、申立人は一九六六年八月単身帰国し現在に至つていること、相手方は近年東京に落着き、会社員として日本○○株式会社に勤務し、永住の意思をもつて今後もわが国に居住する予定であることが認められる。

然るときは、本件はいわゆる渉外事件であるからまず裁判管轄権について考えると、本件当事者はいずれもカナダ国籍を有するものであるが、上記認定事実によると夫たる相手方は日本に国際人事訴訟法上の住所を有するものと認められるから、本件申立については日本の裁判所が裁判権を有し、かつ当裁判所にその管轄の属することは明らかである。

(二)  つぎに本件離婚の準拠法について考えると、わが国の国際私法である法例第一六条によると離婚については、離婚原因たる事実の発生当時における夫の本国法によるべきところ、夫たる本件相手方の本国たるカナダ国は各州により法律を異にするいわゆる不統一法国であり、夫のカナダ国における離婚原因発生当時の住所はオンタりオ州にあると認められるので法例二七条三項により夫の本国法はオンタリオ州法であると認められる。

ところで、カナダ国において、どこの地の裁判所が管轄をもち、如何なる法を適用するかに関する国際私法の原則については、その母法である英国法からとり入れられたものであつて、当事者の住所のある国の裁判所が管轄権をもち、住所地の裁判所は実質法と手続法について法廷地法を適用するとの原則が判例上成立しており、このようになされた外国判決は、その裁判権の基礎となつた住所が英法における住所(domicile)の概念によつてその国に住所があるとみられるときはカナダ国においても承認されると解される。

この場合、離婚管轄決定の基準となる英法の概念による住所とは、いわゆる選択住所で差支えなく、成立要件としては居住の事実と永住の意思を要するものと解されるところ、上記認定の事実によると相手方はわが国に住居を置き、しかも永年わが国に居住し、将来もわが国に永住の意思のあることが認められるから、相手方は上記の意味における住所をわが国に有するものと認められる。

然るときは夫の本国法たるカナダ国の国際私法によれば、本件離婚は日本法によるべき場合に該当するから、法例二九条が適用され、結局日本法が適用されることになる。

(三)  申立人の宣誓供述書の記載ならびに相手方本人審問の結果によると次のとおりの事実が認められる。申立人と相手方との間には結婚後申立人主張のとおり五人の子供が出生しているけれども、申立人と相手方とは、申立人が社交的な交際が好きであるのに対し相手方はむしろ静かな家庭生活を好むという具合に性格や好みが異なるために、次第に心が通い合わなくなり、話合うこともすくなくなつた。

このようにして、申立人と相手方はそれぞれ互いに対する愛情と理解を失つて、結婚を維持しようとする二人の努力にもかかわらず結婚は破綻状態になつたので、一九六六年春、申立人と相手方は、ついに別居し、その後ウイリアムとルイスを相手方のもとに残し、その他の子を連れて申立人はカナダに帰国して現在に至つている。

以上の事実が認められ、以上の事実は日本民法七七〇条一項五号に規定する離婚原因たる「婚姻を継続し難い事由」に該当すると判断される。ちなみに上記の事実はカナダ国オンタリオ州にも適用されるカナダ離婚法(Divorce Act,一九六八)第四条一項(e)(i)に規定する離婚原因たる「夫婦の三年以上の別居」にも該当すると解される。

然るときは申立人の本件離婚の申立は認容すべきものと判断される。

(四)  つぎに、申立人と相手方間の未成年の子の監護に関する処分について判断する。

子の監護に関する裁判は、子の福祉を擁護するという公益的見地から、子の住所地を管轄する裁判所が管轄権をもつとするのが各国国際私法上の原則であり、本件記録中の資料によると、カナダ国の裁判所においても判例上この原則を採用しているものと認められるので、当裁判所は前記認定のとおり日本に居住するものと認められるルイス・ジョーレン・モッスについてのみ監護決定すべきものと解するものである。

ついで、子の監護に関する処分の準拠法につき考えると、当裁判所は子の監護に関する問題は離婚の効果として離婚の準拠法によるよりむしろ親子間の法律関係として法例二〇条を適用すべきものと解し未成年者の父の本国法たるカナダ国オンタリオ州法によるべきものと考える。その場合、カナダ離婚法、一一条一項(c)は離婚判決をなす裁判所において、裁判所は監護に関する決定をすることができる旨規定し、かつ、オンタリオ州に適用される未成年者法(Infant Act)およびその修正法によると、未成年者の監護について父母は平等の権利をもち、裁判所は両当事者の責任、両親の意向、扶養条件、資力、その他の状況を斟酌して未成年者の福祉に最大の考慮を払つて子の監護者を定めるべきものとされている。

そこで、前掲証拠によると、ルイスの監護者を相手方にすることに申立人も同意し、同児は現在相手方において監護養育しており、現在の状況を動かさないことが未成年者の福祉に最もかなうものと認められるので、同児の監護者を相手方と定めるのが相当であると判断する。

(五)  以上の次第であるから、当裁判所は調停委員池原季雄 同佐藤光子の意見を聴いて、当事者のため衡平に考慮し、一切の事情を斟酌したうえ、家事審判法第二四条にもとづき、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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